2010年12月31日

ステップバイステップ(5)制作の心得 其の1

2010年も今日で終わろうとしています。今年は映画界にとって激動の年だったと言えるかもしれません。
『パッチギ!』『フラガール』などの製作から劇場経営まで手掛けてきた映画会社シネカノンの事実上倒産に始まり、いくつかのミニシアターが閉館(その中には『エンプティー・ブルー』を上映してくださった「渋谷シアターTSUTAYA」も含まれます)、そして12月に入ってもDVDメーカーとしてレンタル店などでおなじみのエースデュース、ゼアリズエンタープライズが破産手続きを開始するなど、映画界には不穏な空気が流れ続けました。
  
 
映画界混迷の一年?

いったいこの先、日本の映画界はどうなってしまうのでしょう。そして「作られた映画の半分がお蔵入り」などと言われ、ただでさえ難しいとされている映画の劇場公開も、今後はさらに厳しい状況に向かっていくのでしょうか?

個人的な印象としては、今年起こった様々な出来事は、世の中全体の状況をみれば当然起こりうる範囲内のことのように感じます。
とにかく不況でどの業界をみてもみんなギリギリのところでしのいでいるという感じを受けます。映画業界だけが厳しい訳ではなく、世の中全体が疲弊しきっているので、企業も個人も、映画のような娯楽や芸術に投じるお金が少なくなっているということが周囲を見回す限りではあるように思います。


逆境か、チャンスか

そんな状況の中で、あえて劇場映画制作に挑戦するのは、無謀なことでしょうか?

決してそんなことは無いと思います。

経済状況の変化によって旧来の方法での資金調達は難しくなり、既存の独立系製作会社が今まで通りのやり方で映画を製作することが非常に困難な状況になっているのは確かな筈です。
そういった状況で、小規模でも一定のクオリティーを確保出来る制作者の存在価値は、今までより高まって来るとも考えられます。

製作会社や配給会社としても、企画の段階で出来上がりがどうなるかわからない作品に社運を掛けるよりは、独立して作られた作品の中から、出来が良く、自主上映や映画祭等の実績と評判も良好な作品を選んでいく方が、確実でリスクの低い興業が期待できると判断することも今までより多くなっていくかもしれません。

メジャー系大作と、独立系小規模作品との二極化がさらに進んで行くとも考えられます。

そんな理由で、今から映画制作に挑戦することが以前と比べて特に難しくなっているとは考えません。ただ、元々簡単なことではないことも確かなので、ぜひそのことは肝に命じた上で挑戦されることをお勧めします。


ところで、会社が倒産した、などと聞くとマイナスのイメージが強く、気分も暗くなりがちですが、永遠に続く会社というのは理論的にありません。それよりも、その会社が存在していたときに発表した作品があるということに、つまりその会社の功績に目を向けるのが本来の受け止め方ではないかと思います。ちょうど、故人を偲ぶのと同様の態度です。
たとえなんらかの致命的な失敗が元でそのような結果になったのだとしても、それまでに何も発表しなかったひとと比べれば、「表現者」としては明らかに上ということになります。何本もの映画を世の中に送り出して、少なからず世間に影響を与えてきたからです。

日本では、自分は何もせずに他人の失敗を見てコタツで笑っている、といったスタイルが多くの人に定着しているように思います。
「良い映画を作る人が居ないからこういうことになる」などと、日本の映画界の行く末を嘆く映画通の方々もいます。「自分で作ればいいのに」と思います。生れ付き「作る人」「観る人」という烙印を押された訳ではないのですから。


表現するということ

さて、前回の「ステップバイステップ」カテゴリーの更新からだいぶ間が空いてしまいましたが、仲間集めに続いては制作にあたっての心得についてです。この連載を読んでくださっているみなさんには、よい制作仲間が見つかったでしょうか?

ここで、制作するうえでリーダーとなるあなたにとって、非常に重要なひとつのテーマについて書いてみたいと思います。
それは、「表現する」ということの本質をどう理解するかについてです。

なんだか抽象的な話題ですが、実はとても具体的な結果をともなう大事なポイントです。

劇場映画を作るにあたっては、それがどんなに小規模なものであっても、結果的に沢山の人が制作に関わることになりますし、多くの人の助けを借りて映画は出来上がり、世に出されます。
極々小規模に作った『エンプティー・ブルー』でさえ、100人を超える方々の力によって出来上がっていますし、配給・宣伝・上映・DVD化までを含めれば、どれだけ多くのかたが関わってくださったかわかりません。

その過程で、はたして「自分の作りたいものを作る」という単純なことのために、これだけ沢山の人々を巻き込んで良いのだろうか、とか、それだけの価値がある作品なのだろうか、といった疑問にあたることがあります。
せっかく手伝ってくれると言ってくれたスタッフや出演を希望してくれた役者さん、ロケ地提供を申し出てくれたかたなどに対して、自分の作品には必要ないと判断し、それを伝えなければならないケースがやってきます。
今回はゼロからのスタートを前提としていますから、ここの時点で制作者のかたは完全な素人ということになります。そんなド素人が、偉そうにひと様の好意を踏みにじるようなことをして良いのか、というような場面です。

実際に『エンプティー・ブルー』では、僕もド素人の立場ながら、たくさんの特に役者さん達に対して、お断りの知らせを送らせて頂きました。

こんなときに、先ほどのテーマ「表現するということとは」に自分なりの答えを見付けていないと、制作者としての姿勢や、作品の内容自体がぶれてしまうことになります。


人間は生きているだけで迷惑だ

人には表現の自由がある、と言われます。これに異論のあるひとは少ないと思います。そして、どんな表現でも、必ず誰かの迷惑になる可能性を含んでいます。

気分がよいときに鼻歌を歌うのは自由ですが、それを聞いてうるさいと感じる人もいるでしょう。

一般的に歌が上手とされている人気歌手の歌声でさえ、その歌手が嫌いだったり、夜勤あけでこれから寝ようとしているひとの耳には単なる騒音でしかありません。

また、人は生きていれば息をしてCO2を排出し、米や動物の肉や野菜などの農作物を消費し、鉱物資源を利用し、ゴミを出したり排泄物を出して環境を汚してしまいます。
極論してしまえば、人間は生きているだけで誰かの迷惑になる、と言えます。このことが特に問題にならないのは、差し当たってみんなお互い様だからです。

ただでさえこのように迷惑をかけて生きている私たちには、更に困ったことに、ただ生きているということが出来ず、何かを表現しようとしてしまいがちな性質があります。
「自分は何も表現などしない」と言うひともあるかもしれませんが、前述の「ひとの失敗を見てコタツで笑っている」のも表現のひとつです。聞く人が多いか少ないかの違いしかありません。

ひとが何かを表現する以上、たとえそれが誰かを喜こばせたいとか、役に立ちたいという気持ちから生まれたものだったとしても、その表現行為を不快と感じる人がいる可能性をはらんでいることは確かなのです。

そして、「映画を作る」ということは、数ある表現の中で、かなり大々的に人々を巻き込んで迷惑をかける部類の表現方法だといえます。これは、非常にたちが悪いです。

でも敢えて、それで良しとします。

僕はこのことが、何かを表現する上での基本だと考えます。
「人に迷惑をかけるけど、それでも作らせてもらう」という姿勢はとても重要です。
みんなにとって良いものを作る、などといった思い込みの理想像は、制作チームや周囲の人々を気遣っているようでいて、実は良くない結果を招いてしまいます。そんな表現は、実際には存在しないからです。

もちろん、制作に関わってくれるいろいろな人への気遣いは決して忘れてはいけませんが、表現の内容や制作の基本的な方針までをそれによって曲げてしまうのでは、その制作者は仲間からの求心力を失い、やがて作品はバラバラになってしまうでしょう。

かたくなになることを勧めているのではなく、むしろ柔軟性こそが重要なのですが、たとえばさきほど挙げた例のように、手伝ってくれるというスタッフや役者さんからの申し出を断わる、という場合や、スタッフに別の大事な用件をキャンセルさせてまで撮影を手伝ってもらわなければならない、などの場合にも、「表現することは迷惑をかけることだ」という原則を理解していれば、それほど戸惑わずに決断することが出来ると思います。それがひいては、作品や制作にぶれを生じさせる原因を排除してくれます。


ブレない自分を作る

作品が完成して一定の目標を達成しさえすれば、制作の過程で多少の迷惑を掛けてしまったひとでも、それなりに喜んでくれたりするものです。

ですから、作品自体のテーマを選ぶ際にも、自分自身が一番ぶれないでいられそうなテーマを選択することはとても大事だと思います。この「作品のテーマ選び」についても、後ほど記事にしたいと考えています。


以上、今回は、制作チームリーダーとしての心得について、簡単ですが書いてみました。
それではみなさん、良いお年を!




 
 
posted by 帆根川 廣 at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | ゼロから:ステップバイステップ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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