2011年01月23日

ステップバイステップ(6)制作の心得 其の2

世間は2011年というあたらしい年を迎えましたが、この連載、いまだ何も具体的な制作に取り掛かっていません。今回も引き続き、制作にあたっての心得についてですが、とても大切な部分なので是非お付き合いください。
 
映画制作は修業か?

さて、当たり前のことですが映画制作は任意で行なうものです。考えてみると私たちが日頃行なっていることで強制されて行なうことは少ないといえます。会社や学校へ行く、部屋の掃除をする、など「しなくてはいけない」と思ってやっていることでも、実は「したほうが良い」という自身の永続的な判断のもとに行なっていることが多いです。ですから何か不都合が起こらない限りは、それらのことをするのは当たり前のことになっています。職場や学校でいじめられるとか、部屋があまりにも散らかってしまい手をつける気にもなれない、といったことになって初めて、「やめようか」という考えが生じ、あらためて判断を迫られることになります。

映画制作においても、「やめようか」と思うような状況に直面することがきっとあると思います。
うまくいっているときには進むのが当たり前のようであっても、逆境になれば「どうしてこんなにたいへんなことをしているのだろう」と思います。そしてその時点で制作がある段階まで達している場合、そこで初めて「引き返せない」ことに気づくことになります。理由は、たくさんの人やお金が動き出していて、簡単に「やめた」と言えないからです。ここからが、任意ではなく「強制」の世界です。責任という重圧のもと、なんとしても最後までやり遂げなければならないという強迫観念と戦うことになります。
「これは何かの修業か?」と思います。


引き返せないライン

大抵の場合、このラインを意識して越えることは無いと思います。でも、これを意識して制作をすすめることは非常に大事だと思います。
今回のような、ゼロからいきなり劇場映画の制作に挑戦するという場合には特に重要な要素です。

たとえばビルの屋上から屋上へ飛びうつるのと似ています。墜ちると助からない高さのビルです。結構な距離がありますが不可能な遠さではありません。さて、どのようにして対処するでしょうか。

一般的に、助走をつけて飛びうつることを考えると思います。考えるというよりも運動本能にもとづいて自然に必要な分だけバックして構えるのではないかと思います。
助走を始めて、自分の身体に違和感を感じた場合や、成功する自信がない場合、まだある程度ビルの縁までに余裕があれば、そこで取り止めることができます。でもギリギリまでいってしまえば、もうストップすることは出来ませんし、この際思い切って飛んでしまったほうが安全ということもあるかも知れません。これが引き返せないラインです。

冷静なひとなら、落下したら死ぬようなビルでいきなり挑戦はしないでしょう。地上に同じような距離のラインを引き、助走とジャンプの練習をするのではないでしょうか。

でも、いくら練習を繰り返して成功が確実になっても、実際にビルの屋上にくれば足もすくむし練習と同様の結果が出せるとは限りません。この場合、「引き返せないラインが存在する」という意識をしっかり持たないと、本番の挑戦では命取りになる可能性があります。

そして一度飛んだら、向かいのビルの縁にしがみついてでも、なんとかして飛びうつらなければなりません。


離陸決心速度「V1」

これに似たもうひとつの例えとして、航空機には「離陸決心速度」というのがあるのをご存知でしょうか。

普段私たちが利用する旅客機には、離陸の際、操縦士が守らなければならない基本的な操縦のルールがあります。その中でも一番重要で乗員や周辺住民の命に関わるといえるのが「離陸決心速度=V1(ブイ・ワン)」を厳守することです。V1は、その旅客機の乗客・燃料を含めた重さや滑走路の長さなど様々な要素から計算して飛行の度に設定されます。
飛行機が離陸を始め、この「V1」のスピードを超えたら、例え片側のエンジンが火を吹こうと、翼にブルース・ウィリスがしがみついているのを発見しようと、絶対に離陸を中止してはいけません。その時点ではもう滑走路の中で安全に止まることが不可能であり、オーバーランして空港の外の建物に突っ込み大惨事となるからです。飛ぶしか助かる道は無い、という状況です。
とはいえ、その様な場面を目の当たりにすると咄嗟に飛び立つことを躊躇してしまうのが人間の本能なので、「V1」を超えたら絶対にスロットルレバーを戻せないように操縦士はレバーから手を離す決まりになっている場合もあるそうです。

この非常に基本的なルールを守らなかったために起きたと言われている事故は、国内では
福岡空港ガルーダ航空機離陸事故
などが有名です。

映画制作の場合も同様に、引き返せないラインを越えた後でやめようとするとき、このような惨事を招きます。これは関係者に大きなダメージを負わせるばかりか、自分自身にも二度と映画を撮ることが出来なくなるという結果をもたらすかもしれません。

ですから、このラインを越えたら、なんとしても機体を上昇させ、「劇場公開」という飛行場に着陸させなければならないのです。これが冒頭に書いた重圧であり、操縦士としての責任でもあります。

安心していただきたいのは、今回の飛行機はジャンボジェットなどではなくて小型機ですので、降りられる飛行場はわりと沢山あるし、不時着も簡単だということです。
そして、たとえジャングルや海の上に不時着したとしても、機内の乗客からは拍手と歓声が巻き起こるのです。


『ゼロから』だけのローカル・ルール?

映画制作においても、この「V1」が存在すると思います。そしてこれを意識して制作の進行を行なうひとはほとんどいないと思います。
でも、このことが成功の鍵を握っていると、『エンプティー・ブルー』の制作中、僕は密かに考えていました。
この点は、プロによる一般的な映画制作と、今回の『ゼロからの劇場映画制作講座!』における制作方法の、決定的な違いとも言えます。『ゼロから〜』の場合では、この「V1」を意識することがとにかく非常に重要なのです。

助走の練習は、どんなに繰り返しても良いですし、実際に飛行体制に入り、離陸を開始しても構いません。その飛行機は、あなたが操縦捍を握り、スタッフや役者さん達が乗っています。
「V1」に達する前ならば、あなたが「これは駄目だ」と判断した場合には離陸を中止して急ブレーキをかけても構いません。初めての挑戦で、いきなり劇場公開が可能なレベルの映像が撮れる可能性の方が少ないのです。何度も繰り返すうちに、「またか」とか「もうおっかなくて乗っていられない」と言って降りていく人もいるでしょう。無理も有りません。

足りなくなった分の乗員を補充して、「今度はもっと上手く、今までの失敗を生かして華麗な離陸を成功させよう」と再挑戦する。それでよいのです。


常に120%本気モードで

ここで肝心なのは、毎回本気で離陸しようとすることです。初めから練習のつもりで取り組んでいては、あなたも、一緒にやってくれる人も、決して本当の実力を発揮出来ませんので、そのチームの限界を把握することは出来ません。ですから、一緒にやる仲間には「本気で離陸する」(=劇場公開作品を作る)つもりであることを言葉と態度でちゃんと伝えましょう。

本気過ぎて引くひともいるかもしれませんが、真剣な姿勢で取り組みそれを何度も繰り返す姿を見て、自分も協力したいと申し出てくれるひとだってきっといる筈です。


失敗をただの失敗として片付けない

離陸に向けて猛スピードで加速し滑走した結果は、あなたの映画の立派なパイロットフィルム(試作映像)になります。練習ではなく本気で飛ぼうとしているので、撮り上がってくる映像は予告編に匹敵するような力を持ってくる筈です。その映像を、断片的でも構いませんのでしっかりと編集し、DVDにしてあなたの映画に興味を持ってくれそうなひとに見せ続けて下さい。「これなら、自分も協力してもよい」と言って貰えるかも知れません。誰からも反応が無いのは、まだ離陸出来るスピードに達していないということかもしれません。

肝心なのは、幾度となく繰り返す失敗を失敗として認識せずに、次へのステップとすることです。失敗する方法がわかったら、それと違う方法を試せば成功への道が拓けます。

そして、「今なら飛べる」という実感が、確信を伴ってやってくる瞬間が来ます。
そうしたら、決して躊躇せずに、多少の失敗も省みず、思い切って最後まで撮りあげてしまいましょう。

その瞬間が来るまで、他人の目などは一切気にせずに、心置き無く猛烈な滑走と失敗を繰り返してください。



以上、今回も抽象的な内容の記事になりました。ただ、何度も書きますがこれは今回の『ゼロからの劇場映画制作講座!』と共に制作を進める上で非常に大切なことですので、是非この点を頭の片隅で意識して、今後の制作に役立てていただきたいと思います。




 
 
posted by 帆根川 廣 at 22:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ゼロから:ステップバイステップ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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