2011年04月02日

ステップバイステップ(7)制作の心得 其の3

誰もが映画を作って劇場公開できるようになることを目指す当連載、『ゼロからの劇場映画制作講座!』。
最近は先輩監督からも「ちっとも撮る段階に進まない」とか、「だんだん内容が宗教じみてきてる」などと、励ましの声をいただいています。
今回も、そんな「制作者の心得」の3回目です。
 

自分で考えて決めることの重要性

この連載をはじめる以前から、「どうやったら映画が作れますか?」といった内容のメールをよくいただきます。そういった漠然とした質問の解答として少しでも役に立てばよいと考え、2009年公開の映画『エンプティー・ブルー』の経験を踏まえてこの連載を始めたことは、序章にも書いたとおりです。
それ以外にも「いま大学生ですが卒業したら映画の道へ進むべきでしょうか?」といった人生相談のようなメールをいただくことがたびたびあります。
なかには、「将来、映画監督かバーテンダーで迷っています。どっちがよいですか?」という質問までありました。
「新宿の母か」と思います。

この連載記事の対象は、これから監督という立場で映画を制作して、ひと様の人生までも左右してしまうようなことをしようとしている方々です。これは大袈裟ではなく、例えば参加してくださる役者さんにとっては、作品の出来次第でその先の出演依頼が来なくなってしまう(あるいはヘンな役ばかり来てしまう)、ということだってあり得ます。
他にも、制作にあたってはとにかくことあるごとに決断を迫られるものです。
自分の将来さえ自分ひとりで決められないようでは、ちょっと話しになりません。

そんな理由で、今度からそのようなご質問をいただいたときは、例外なく「やめておいた方が良いです」とお答えしようと思います。

ところで、制作中になかなか物事を決断出来ない理由のひとつとして考えられるのは、自身の不完全さを認識し容認出来ていないことが有るように思います。ひとつのことを決断すると、理論上、必ず良い作用と悪い作用の両方の結果が生じます。どんなすばらしい人物でも、見かたによっては悪い結果を導いてしまうことになります。完璧主義では何も進みません。

逆に、全ての面において良い結果しか生じないように見える決断が有ったとしたら、それは非常に危険であるとも言えます。
どんな良い決断をするかよりも、どの観点をもってその結果を受け止めるべきなのかが、ある決断をする上で一番考えなければならない部分です。

映画制作の場合、ともすると個人的な満足を得られやすい決断をしてしまいがちですが、そうではなく、作品にとって良いとおもわれる決断を単純に続けてゆくことが、ひいては良い作品の完成に繋がると考えられます。


全部自分でやる、という心構え

映画を作って劇場公開まで漕ぎ着けるためには、想像以上に沢山の作業が必要です。すぐに思いつくだけでも企画・脚本はもちろん、キャストやスタッフ・ロケ地の選定や交渉、衣装・美術・セット・小道具の選択や制作、キャスト・スタッフ・ロケ地とのスケジュール調整。現場では撮影(カメラの操作)、照明、録音、ヘアメイクなど。さらに編集、カラコレ(color collection:色補正)、MA(multi audio:音声処理)、上映素材のマスタリング(原盤制作)、チラシやWebページの制作、宣伝、そして上映会ではプロジェクターのセッティングからチケット・座席の管理まで。

もちろんこれらのことを一人でこなすのは不可能に近いので、仲間をさがすことがとても重要なわけですが、はじめから全てを人任せで、という姿勢では、なかなか上手くいかないことが多いと思います。
その理由は、自分が一度も経験したことがないことを安易に他人に頼むことは、その分野で何が大切で、何が一番の問題点になりやすいのかを理解出来ないからです。そのため、誰に頼むのが適任かを判断できず、また頼んだ相手がどの程度深刻な問題に直面しているかを汲み取ることも難しいです。
そして、上手く運んでいると思い込んでいたことが全く進んでいなかったことに手遅れになってから気がつく、という事態につながることがあります。

もうひとつ、具体的な例をあげてみます。
撮影が得意なスタッフが仲間に加わり、喜んでそのひとに撮影を全て任せることになったとします。ある撮影の日、キャストや他のスタッフが時間通りに集まりましたが、撮影を始めようとした矢先、撮影担当のスタッフの身内が亡くなったという連絡が入り、そのスタッフは帰ってしまいました。その場に残された、遠方から集まった役者さん達、その日のために仕事を休んで参加しているスタッフ、お店を臨時休業にしてロケ場所として提供してくれたお店のオーナーさんなどなど…多くの関係者の目が、一斉にあなたに向けられます。撮影をすべてスタッフ一人に任せていたため、カメラや機材は有るものの自分では何も出来ません。すごすごと撤収して次の機会を待つ、ということになります。でも、沢山のひとがもう一度スケジュールを合わせることがどんなに難しいことか、一度でも撮影のスケジュール管理をしたことがあるひとなら良くおわかりかと思います。もしそのシーンが、紅葉や、桜の花が咲いているような場面だったら…。来年まで1年間待たなければなりません。もしかしたら、その機会は二度と訪れないかも知れません。

プロによる映画制作では、それぞれの分野で実績のある専門家が寄り集まって制作体制をとります。プロは前述の例のように、身内が亡くなっても途中で帰ってしまったりはしません。またどうしても避けられない非常時のためにはバックアップ体制も備えています。
キャストに関しては、替わりが効かないのでもっとシビアになります。頻繁に風邪を引いたり体調を崩すひとにはそもそも仕事が来ませんので、やはり有る程度実績のあるプロの役者さんに任せるのが安心です。
ところが、今回は『ゼロからの劇場映画制作講座』です。仮に予算に余裕があってプロのスタッフやキャストを集められたとしても、初めて映画を制作するあなたにプロの方々を束ねることが出来るとは思えません。お金を払えばそれでOK、という訳では無いのです。

以上のような理由からも、特に作品の仕上がりに直接影響する、現場においての撮影・照明・録音などについては、今回はじめて映画制作に挑戦するあなた自身が、まずは直接担当してみることをおすすめします。少なくともスタッフによる要因で撮影が出来なくなってしまうというケースは回避出来ます。

参考までにキャストの場合ですが、急に参加出来ない役者さんがいたとしても、ロングショット(引き画、遠くから撮影するショット)や肩なめショット(肩越しに後ろから撮影するショット)をスタンドイン(代役・同じ衣装を着用)を使って撮っておき、来られなかった役者さんには後日一人で同じ場所に来てもらいアップだけを別に撮影して編集で繋げる、という方法をとることが出来る場合もあります。
この撮影方法は、多忙で役者さん同士のスケジュールが合わない場合などに、計画的に行う場合もあります。スタッフは2度足を運ぶ必要があり、照明(ロケでは天候と時間帯)なども同じように合わせる必要がありますが、実際には顔を合わせていない役者さん同士の会話シーンが成立してしまいます。



映画制作においてなるべく多くの分野を自らで実際に担当してみることは、その後の制作活動全般にフィードバックされ、少なからず作品の完成と質の向上のために役立つことと思います。
 
 


  
 
posted by 帆根川 廣 at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | ゼロから:ステップバイステップ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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