2011年05月31日

ステップバイステップ(8)企画を立てる 其の1

諸事情により久しぶりの更新となってしまいました。皆さんの取り組んでいらっしゃる映画制作は、順調に進んでいますでしょうか?

さて、今回からは「企画の立て方」について、いろいろな視点から僕なりに考えるところを書いていきたいと思います。
 

企画って何?

映画を制作するにあたって、「企画」の部分はとても重要です。
この「企画」次第では、その後どんなにがんばって制作しても、完成したその作品が見向きもされないということにもなりかねません。

「企画」というとまずはじめに「企画書」を思い浮かべるかたも多いと思いますが、今回ここで取り上げる「企画」とは、いわゆる「企画書」に書かれるような事柄のことではありません。
簡単にいうと、その映画をどの様な「動機」で作るか、ということを指しています。
これは非常に主観的なことで、制作者であるあなた自身の生い立ちや性格、趣味・趣向、特技、職業、住んでいる地域、生活環境、欲求や願望などすべてを踏まえたものです。このようなプライベートな要素の中にこそ、映画作りの企画を考える上での重要な「武器」が隠れていると考えます。


『息もできない』

まず今回、映画制作の企画についてその一例として取り上げたいと思った作品は、韓国映画『息もできない』(2008)です。

主演・監督・脚本・編集・製作をヤン・イクチュンさんが担当して作られ、世界中の映画祭で受賞をはたして話題を呼んだという作品です。



このヤン・イクチュンさん、そこまで一人でやるか、と思うほど制作の殆どを一人で担当しています。
主演に加え、監督・脚本・編集・製作。
この中にある「製作」([produce]:下に「衣」が着く方の「製」の字を使う)は、一般に資金を出した人、または資金を調達した人を表します。(「制作」[production]とは区別して使います。)
つまり自身で資金を集めて、企画を練り、脚本を書き、現場ではスタッフを指揮したり自身と他の出演者の演出を行い、撮影後に映像と音声を編集する、という映画制作のなかの大半の作業を自分一人で担当してしまった訳です。

インディペンデントを中心に経験を積んできた、役者出身の監督ならではの、最強の制作パターンと言えます。

この制作パターンは、現在役者をしている人や、将来役者を目指して勉強中のひとにとっては可能性を感じさせてくれるものかも知れません。自分の得意分野を活かしてオリジナルの脚本を書き、撮影スタッフを探して映画を作ってしまう。
伝説的な役者である故・金子正次さんも、この制作パターンで主演映画『竜二』を遺作として残されました。

役者さんが、自身の主演映画を劇場公開して沢山の人に観て貰い、またDVD化もして、世の中に自分の姿をずっと残してゆく。そのための、実は一番確実な方法と言えるかもしれません。
もちろん簡単なことではありません。ヤンさんは制作費に注ぎ込むために親戚から借金したり家を引き払ったりしたそうですし、金子さんは『竜二』公開の後すぐに病気で亡くなられてしまいました。
けれどもその結果として、『息もできない』は世界中の映画祭で絶賛され、劇場やDVDでたくさんの人々の元に届けられましたし、『竜二』は伝説とまでうたわれるような存在の作品になりました。


ですから、オーディションを受け続けてもなかなか大役のチャンスに恵まれない、という役者さんで、この『ゼロからの劇場映画制作講座!』を読んで下さっているかたがいたら、一度真剣に検討してみるのも悪くないかもしれません。映画は、一番強い「動機」を持っている人が中心になって作るべきだと、僕は考えるからです。それが必ずしも監督だとは限りません。そして役者さんで「映画に主演したい」という強い想いを抱いていない人のほうが、たぶんめずらしいと思います。


「表現したいものがある」と「強い動機がある」の違い

「強い動機がある」というのは、以前の記事で少し書いた「テーマ」に関することとは異なります。
「テーマ」は、表現したいものが何か、という内面的なものに直結します。
それに対して「動機」は、映画になったとき、どちらかというと物質的なもの・目に見える外面的なものにつながっていくといえます。

例えば、あなたが銃マニアで、寝ても覚めても銃のことばかり考えてしまう、というひとならば、おそらく銃についての強い動機を持っているといえると思います。その場合、ガン・アクションや銃器に関する描写が最大の特長となるような映画を考えるのが良いでしょう。
また、ボクシングをやっていてプロのライセンスも持っているというひとなら、主人公をボクサーの設定にして映画の中に題材として取り入れ、見所にするのも良いと思います。

自分が好きなもの、興味を持っていることをうまく映画に組み込むことで、とってつけたような偽物のキャラクター設定では醸し出せない深い味わいや雰囲気、世界観を作りだすことが出来ます。そしてそれらは映画を魅力的にしてくれる重要な要素になり得る訳です。
自身が元々持っているものを動機として用いることで、映画の制作作業に、そして作品の内容に強い回転力のようなものを与えることが出来ます。この回転がかかった状態は、「ゼロからの映画制作」をうまく進める上でとても大切です。

たとえば、長年劇団をやっているが、自分達の舞台を映画化してより広く沢山のひとに末長く観て貰えるようにしたい、といった動機から生まれた企画なら、舞台作品を映画にうまく置き換える作業に全力で当たれば良いのですから話は簡単です。

大好きな小説(あるいは漫画)がある、というのも立派な動機といえます。それを映画化したい、そのために、原作とするその小説(漫画)の作者のところへ行って許可をとり、同じ想いを持っている仲間を募り、映画を制作する、というのでもよいのです。

また極端な話、自分は絵を書くのが得意で普段からアニメばかり観ている、というのなら、無理に実写映画を作る必要はなくて、むしろアニメ制作を考える方が自然のように思えます。

このように「企画」を考えることは、制作体制や、時には表現手段にまで影響するほど、幅広い選択肢を与えてくれます。

あくまでも混同しないでいただきたいのは、その作品を通して何を表現したいのか、いわゆる映画の「テーマ」とは、全く別の話だということです。


得意分野を武器にする

簡単に言えば、この「得意分野を武器にする」ことが、企画を立てる際の鍵となります。

自分が苦手な分野のことをいくら頑張っても、得意な人には敵いません。
逆に、このことなら得意だとか、興味が尽きない、という分野の事柄でなら、他の人の目を引くことが出来るかもしれません。

自分が他にあまりないような専門的な仕事を持っているなら、その要素をうまく映画に取り入れることができればきっと映画の魅力のひとつになると思います。
住んでいる地域に、人を惹き付けるほど特徴的な場所や風景があるのなら、それさえも強力な武器になります。

前述の『息もできない』では、ヤンさんの圧倒的な演技への情熱を感じます。おそらく彼にとっての最大の動機は演技であり、それを全面に出して企画を立て、自分の演技を120%活かすための脚本を書き、自身と共演者の迫真の演技を武器に世界中の観客を魅了することに成功したのではないかと思います。

この「武器」というのは、映画が完成した後では結果的にその映画の「ウリ」になる部分といえるでしょう。
でも、「この映画のウリは何にしようか…」などと企画の段階で考えるのは、「ゼロからの映画制作」ではあまりおすすめできません。


企画書には表せない何か

「映画を作ろう」と思い立って、まずパワーポイントで企画書を作りはじめるというのは、プロによる映画制作ではあり得ることかもしれませんが、当連載『ゼロからの映画制作講座!』では正しい順序とはいえません。制作規模や体制が、商業的な映画とはあまりにも違うからです。作品が受け入れられるために重視しなければならない事柄も、受け入れられるかどうかの判断基準も、全く異なってきます。
企画書の項目では伝わらないような何かを、作品全体が醸し出していることが求められると考えて間違いではないと思います。

「○○をこの映画のウリにしよう」と企画を立ててから、その分野の専門家を探して来て雇う、というのが商業映画の手法ならば、自分の中から「武器」(=「ウリ」)になるものを引っ張り出してくるというのが「ゼロからの映画制作」の手法といえます。
ですから、まずは自分自身と、仲間集めで集まった仲間たちのことを深く分析してください。
自分達の最大の武器は何なのか。
自分のなかで、強い動機を持っている事柄は何か。
その答えを見つけられた時に、企画書には書き表すことが出来ないような「人を惹き付ける魅力」が、おのずと映画の中に宿りはじめるのではないかと思います。

 
 


  
 
posted by 帆根川 廣 at 02:48| Comment(0) | TrackBack(0) | ゼロから:ステップバイステップ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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