2011年06月04日

ステップバイステップ(9)企画を立てる 其の2

前回に引き続き、「企画の立て方」について其の2です。
 

劇場映画『終わらない青』

今回は本日6月4日(土)より劇場公開の最新作『終わらない青』を例に、企画について考えてみたいと思います。
 
この作品は、一見平凡なひとりの女子高生が直面している残酷な日常を独特の間とカメラワークで淡々と描いたヒューマンドラマです。
「青」繋がりで『エンプティー・ブルー』を観に来てくれたことがきっかけで仲良くなった、緒方貴臣監督の第一回監督作品です。


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緒方監督は、「学校にお金を払うくらいならそのお金で映画を撮ったほうがよい」と映画の専門学校を途中で辞め、海外放浪などを経て本作『終わらない青』を独学で撮りあげたという、まさにゼロから映画制作に挑戦した監督です。
その後作品は映画祭で評価され、劇場公開を達成したという、当連載が目標としているところをぴったりのタイミングで成し遂げている人物です。
(すでに第2回監督作品『体温』も映画祭に招待され、劇場公開が予定されています。)


「情熱」はウリにならない

前回の「企画を立てる 其の1」では映画制作の企画を考える上で重要な「動機」について書かせていただきました。

「動機」という言葉がピンとこないかたも多いと思いますが、あえてこの言葉を使いました。
代わりに「情熱」という言葉を使っていたら、一般的にわかりやすく説明することが出来たと思います。「あなたが強い情熱を持てるものを、作品の題材にしてください。」と言えば、理解しやすいでしょう。
でも、それでは映画の企画は成立しません。
「この映画はものすごい情熱を込めて作られています」、といっても、一般の観客のみなさんとはそれを共有出来ないからです。

それに対して制作者が元々持っている生い立ちや性格、趣味、特技、職業、住んでいる地域、生活環境、欲求や願望、直面している問題…などから生じる強い「動機」は、観客の皆さんの持っているそれらのものとリンクして、そのまま劇場へ足を運ばせる「動機づけ」になることがあります。

例えば身体に障害を持っている人が映画制作の企画を考えるとき、その障害に関する題材を作品に組み込みたいと思うことは、後々劇場に同様の障害を持つ人やその家族が足を運ぶ「動機づけ」となる可能性があり、有効です。
もちろん上手に作品のテーマと絡めて用いる必要がありますが、この場合、障害を持っているということは決して「情熱」ではありません。むしろしかたなく自分に与えられたものであることが多いですが、そういった逃れられない体験や境遇こそ、ゼロからの映画制作においては自分にしか持ち得ない強みになり、また完成後の作品の「ウリ」にもなり得る大切な要素だと思います。

商業的な企画で作られる作品では、しばしば人気絶頂の役者さんや原作の小説・漫画、テーマソングなどの選択が、観客を劇場へ向かわせる「動機づけ」となるように仕組まれます。

「ゼロからの映画制作」では、これらに代わるものを作品の中に仕組まなければ、完成しても誰にも観て貰えない作品になってしまう可能性が高まります。
そのため前回書いたように「動機」を自分の内面に見つけ出すことをお勧めした訳です。

終わらない青』の「動機」は何なのかを考えていくと、ゼロからの映画制作における「動機」の重要性がもう少し具体的にわかっていただけると思います。


「リストカット」という題材の選択と「動機」

終わらない青』では「リストカット」がひとつの重要な題材として描かれています。これは、当連載で言うところの「動機」にあたると考えます。

「7人に1人が経験するリストカット」、「リアル・リストカッター、水井真希が主人公を演じる」など、マスコミが好きそうなキャッチコピーで本作が新聞やWebの記事に取りあげられていることからも、監督にとってはもしかしたら不本意かもしれませんが、これが映画の強力な「ウリ」になっていることは疑いようもありません。
前回書いたように、強い「動機」が作品の「武器」になり「ウリ」にもなる、という好例だと思います。

では、逆に話題になりそうな題材を探し出して選ぶのはどうだろう、と考える人もいるでしょう。
「企画」というのはなるべく客観的に、先のことを見込んで行うからこそ意味があるものですので、当然制作前の今の時点でこれを考えることは必要です。
けれども「○○」を描けばそれで話題を呼ぶだろう、というように単なる打算だけで題材を選択する場合、マーケティングに長けたプロによる商業作品ならばまだしも、ゼロからの映画制作ではうまく行かないことが多いと考えます。
単なる題材のひとつではなく強い「動機」を伴うものであるために、制作者自身の中にその題材との強い繋がりがある必要があります。


ジャーナリズムや発見も「動機」になる

ところで『終わらない青』の緒方監督は「リストカット」を経験しているわけではありません。では、自分で経験したことが無いのになぜこの題材を「動機」としてここまで深く真正面から描くことが出来て、またそれを経験している当事者の感心や共感を生むことが出来たのでしょうか。それは、監督が元々偏見を持っていた「リストカット」の現実を知ったときに受けた強い衝撃と、誤解が解けたときのさまざまな発見の経験がもととなり(=「動機」)、劇映画として作品のなかで描くことにした、とインタビューで語っていることで説明がつきます。
だからこそ、誤解や偏見を取り除いてわかってほしいと思う当事者の人達の共感を得られたのではないかと思います。

そう言った意味でこの「動機」は結果的には映画のウリになり、著名な精神科医や当事者の人達の賛同を得て、映画のPRにもプラスに働いているように思えます。
宣伝にたくさん費用がかけられる訳ではないゼロからの映画制作の場合、このことは想像以上の「武器」となります。
ただ興味を引くためだけのネタとして取りあげたのでは、おそらく結果は違っていたことでしょう。


「リストカット」や「虐待」がテーマではない

前回も書いた通り、作品を作る上での「動機」と作品のテーマは異なります。
では監督は何を表現したいのでしょうか。
実はそのことの方が、映画が作品として評価されるときには重要になります。
たくさんのお客さんが観に来てくれることと、その作品が評価されることとはまったく別だからです。

ただ、お客さんが来てくれそうも無い映画は、劇場公開されません。(※例外もあります)
つまりまず映画として評価されるかどうかの土俵に上がるためにも、企画段階においてこの「動機」をしっかりと組み込むことが重要になってくる訳です。

緒方監督が表現したかったものに興味があるかたは、ぜひ劇場でおたしかめください。


リアルタイムの参考書

終わらない青』は、本日21:00より3週間、渋谷・アップリンクXにて劇場公開です。
当連載をお読みいただいている制作者の皆さんには、必ず生の参考書になることと思います。なぜなら、本作は実際にゼロから制作され、現にいま劇場公開されようとしている作品であり、ある意味で当連載『ゼロからの劇場映画制作講座!』の目標地点にリアルタイムで到達している作品だからです。
逆に言うと、この作品を観て何も参考にならない、というひとには、目標の達成は難しいとも言えます。
ただ偶然に公開作品として選ばれて公開されているように見えても、まだ当連載では触れていない事柄も含め、数々の必要事項をすべてクリアして今日の公開を迎えているのです。

特に今回は「企画の立て方」についての記事ですので、この作品がどうやってこの問題をクリアしているのかを発見し、皆さんが企画中(または制作中)の作品と照らしあわせて役立てて頂けたら、とても有効なことだと思います。

そんなわけで、今回は劇場映画『終わらない青』を例に「企画の立て方」について考えてみました。
東京近郊にお住まいのかたは、ぜひこの3週間の間に渋谷・アップリンクXへ足を運んで、本作からたくさんのことを学びとって頂ければと思います。


映画『終わらない青
6月4日(土)〜6月24日(金) 連日 夜9:00〜 (本編66分、年齢制限なし)
入場料 一般¥1,300/学生・シニア¥1,000/UPLINK会員¥1,000
渋谷・UPLINK X にて

『終わらない青』公式サイト

緒方貴臣監督 公式ブログ


 


  
posted by 帆根川 廣 at 18:04| Comment(0) | TrackBack(0) | ゼロから:ステップバイステップ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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